ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~
(か、体が火照る! 無理っ!)

「あの、かか、帰ります!」

「え?」

「おお、お疲れさまでした!」

 勢い込んで頭を下げて目の前を去ろうとしたら腕を掴まれた。

「ひゃぁ!」

「今帰るのか?」

「え?」

「四宮、電車じゃなかった?」

「あ、はい。そうですが……」

「止まってる」

(え?)

「夕方の地震でそもそも遅延してて、今は雨で完全に止まった」

「ええ?!」

「俺もタクシーで戻れたけど、長蛇の列。待ち時間がヤバい、駅は今すごい混雑だよ」

「そ、そんなぁ」

「もう少しここで待機したほうがいい」

 そう安積さんに言われて、無視して帰れるわけもなく。帰る手段も今すぐ見つけらない以上待機は必然かもしれない。私は安積さんの言葉に素直に頷いた。

「そうします……」

「うん。とりあえず俺、着替えてくるわ」

 そのままオフィスを出て行ってしまって、逸る鼓動を整えた。
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