ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~
 詰みまくる私、どうしよう。

「えっと……とりあえず入りな? ここじゃ……」

「入る前に! どうしても確認したくて!」

「だから何を」

「待ってるヤツって誰ですか?! そんな方がいるお部屋にお邪魔するのはやはりまだ勇気がなくってっ……!」

「……待ってるヤツ?」

 探る様な安積さんの声に胸がキュッと締め付けられて、それでも昂りだした気持ちが抑えきれなくなった。ずっと、ずっとその言葉が胸の中を締め付けて放さなかったから。

「聞いちゃったんです……去年に……柳瀬部長とお話しされてたこと。柳瀬部長が安積さんを揶揄って恋人云々でその時に……」

「去年? そんな会話あったっけ?」

 ううーん? と、記憶を探っている姿に本当に覚えがなさそうで。でもそれはつまりそれくらい自然な話なのではないかと思わせる。日常会話くらい自然に言えること、自分の暮らしの中で当たり前の様な……。

「恋人はずっといなかったって、おっしゃってたけど……でも本当は……大切にしている方がいるんじゃないんですか?」

 家で安積さんを待つ人、その存在がどうしても私は無視できない。

「やっぱりとりあえず入りな?」

「え?」

「自分の目で確認したらよくない?」

(ええ?)

 戸惑う私にフッと微笑む安積さん。動けずにいる私の腕をグイッと引っ張って玄関扉を開けるから……。

「ああ、安積さん! でも私っ……」

 私の気持ちや言葉などまるで無視するかのように玄関中へ引き入れられてしまった。
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