ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~
 なかなか大人の女にはなれない。

 そんな現実に落ち込むばかりだ。心はそんな風に落ち込むものの肩に抱き上げながらキッチンでモモちゃんの餌の準備をしたりしている安積さんの姿をリビングからボゥっと眺めていると不思議な気持ちになる。

 目の前にはオフィスでは見ることのできない安積さんがいるのだ。

 猫を可愛がりながら戯れあって微笑む姿、こんなのデスクで見られるわけがない。

 優しげな目と醸し出す穏やかな空気にモモちゃんが居心地よく過ごすのがよくわかる。守ってもらえる、それがわかるから。

 大事にしてくれる人……それが私にだってわかるんだ。

「四宮はベッドで寝たらいいよ」

「……え?!」

 ボゥっと見つめていていきなり安積さんの口からのベッドで寝る、などというパワーワード。瞬時に受け止められない。

「え、え、安積さんの?」

「うん。シーツとかは変えといたから」

「待って、待ってください! そんなことできません! わわ、私ここで……このソファ貸してください!」

「……女の子ソファに寝かせられないだろ」

「いいんです! むしろソファがいいっ!」

「でも……」

「安積さんのベッドとか無理っ! 余計眠れません!」

 言ってからまたハッとする。今のセリフは大丈夫だろうか……無理、なんて……変な誤解をされないだろうかと青ざめかけたら吹き出される。

「……あ、あの」

 肩を揺らすほど笑うから……なんだかずっと安積さんに笑われ続けている気がする。
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