ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~
(甘え過ぎているよな)

 誰かがしていること、は当たり前のことではない。四宮ひとりに負担させることではないのは分かっていたのに、毎日に追われてそれを言い訳に四宮の優しさに慣れてしまっていた。何人か部下がいる中でも四宮は俺にとっては頼れる部下だった。
 
 誰と揉めることもなく、その面倒な仕事も黙って引き受けて、与えられる仕事に前向きで向き合ってくれる。そんな部下に好意的に思わない上司はいないと思う。

 部下として貴重で、手放したくない存在……そんな子だった。

 どこまでいっても部下だ。

 当たり前に恋愛対象になどなるわけもなく。そもそもなるわけがない。

 俺と彼女は職場の上司と部下で、明らかな年齢差があった。

 俺が、よりも彼女が俺みたいな男に恋愛感情など持ち合わせているわけがないと自惚れるまでもなかったのに。

「お話したい事があります」

 ひと気のなくなったオフィスで切り出された言葉に面談でしていたキャリアアップの相談だと思った。自分がここを去る日が近づいている手前、もし四宮が真剣に何かに悩んでいたら突破口だけでも開いてやれればと思っていた。
 
 それなのに。
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