ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~
「私は! 安積さんがいいんです! 安積さんが好きなんです!」

「俺なんか、ってなんですか?! 私は、安積さんだからっ……」

 どんどん、どんどん投げてくるからマジで勘弁してくれと思った。
 
「ごめん、いろいろ無理」
 
(聞くに堪えない!)

 部下としか思っていなかったしかもひとまわりも年の離れた若い子に直球で「好き」などと告白されて受け止められるほどの耐性は持ち合わせていなかった。単純に恥ずかしくて死ぬ、それが一番にきていた。

「いろいろは……なんですか」

 そう呟かれた声は切なげだった。初めて聞いた声だった。いつも四宮は元気で明るくて、周りに心配かけたり不安にさせたりするようなことはしないようなシャンッとした子だったから。

 そんな子が、こんな弱った声をこぼすのか、そう思ったものの受け入れられる話ではない。情けをかける方がよほど失礼ではないか。
 
「そうだな。四宮は若い、もっと視野を広げたほうがいい。ちょっと目の前に俺がいて勘違いしてるだけじゃないかな。歳だっていくつ違うと思う? ひとまわりだ、それ考えたことあった?」

 正直な気持ちを告げた。そしてどうしたって思うのだ。

(そんな感情は、きっと恋と勘違いしているだけだ)

 憧れと恋の狭間できっと揺れているのだろう。

 自分の周りにいないタイプの年上の男、そこにたまたま俺が当てはまっただけではないのか、そう思わずにはいられない。
 
「歳が……理由ですか」

 それは一番大きな理由になるし、いい言い訳だと思った。
< 87 / 248 >

この作品をシェア

pagetop