ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~
 雨はまだよく降っている。
 部屋の中にも響くほど、静かな夜だ。こんな夜が訪れる日が来るなんて誰が予測できただろう。
 
「……本当に、変なヤツだな……」

 すぅ……っと、心地よい寝息をたてて眠る四宮が俺の部屋にいる。不思議と違和感がなくて初めてなのになぜか受け入れられるような安心感はなんなのか。それはモモを見ていてもわかるのだ。
 
 眠る四宮の布団の上で身体を丸めて眠るモモがいる。

 動物好きで慣れた大家にも一切靡かず、病院などに行っても毛を逆立てるほど威嚇するくせに、四宮にだけはそれがなかった。
 
 絶対姿だって見せないと、そう思っていたのに。

「本当に、懐いちゃったんだな」

 四宮とモモが気持ちよさそうに寝息をたてるから、それを見ているだけで微笑ましくて。久しく感じていなかった胸が熱くなるような気持ちを思い出す。
 
 自分以外の誰かが息をする部屋の中、そこはいつもと違う世界の様で。

 くすぐったくてホッとする。ひとりでいる時間が長かった分、余計にそう思うのだろうかと自分に問いかけるもののなんとなく答えが出そうで頭の中で打ち消した。

 これは――期間限定のかりそめの恋人だ。

 四宮に諦めさせるための、特別な時間。
 嘘の恋人時間。嘘の……恋。

 そして多分、これが俺の出来る最後の恋なのかな、そう思いながら四宮の頬に指先が触れていた。
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