注意、この脚本は本当です

11話 見てることしかできなくても

◯市民文化センター、ロビー
小雪「おはよ」
梨里杏「おはようございます!」
蓮「小雪、緊張してるか?」
小雪「さすがにね……でも、大丈夫。やれることやってくる」
梨里杏「先輩の聞きにいけないのやっぱり悔しい……ラジドラの会場から、めっちゃ応援してます!」
小雪「ありがとう、それだけで百人力だ。そっちは作品楽しんでおいで」

小雪はアナウンスの会場に、蓮と梨里杏はラジドラの会場に向かった。

◯市民文化センター、第2ホール(2日目、朝)
蓮「俺たちのは32番だから最後の方だな」
梨里杏「緊張してきた……」
蓮「大丈夫」

蓮は梨里杏の手を握る。

蓮「ベストは尽くした」
梨里杏「……うん」

司会「ただいまより、創作ラジオドラマ部門の審査を開始いたします。」

各校のラジオドラマが次々と流れる。

蓮(やっぱり面白いな……まだ序盤なのに、どれが決勝に上がるかわからない)

決勝に進めるのは上位4作品。かなり高い倍率を突破しなければならない。時折休憩を挟みながら、様々な作品が流される。

蓮「さっきの面白かったなぁ、オチまでしっかりしてて内容もシンプルで」
梨里杏「ね!どの作品も最高」
蓮「……はぁ」
梨里杏「どしたの」
蓮「俺らの作品が1番って思ってきたのに、急に怖くなってきた」
梨里杏「わかる」
蓮「当たり前だけど、ここにいる全員、全国に行くつもりで食らいついてきてる。レベルが高くて当然だ」
梨里杏「でも、それでも私たちも全国に行くために作った。変わらないよ」
蓮「だな」

どんどん進んでいき、お昼休憩の時間になった。
蓮「小雪は……まだみたいだな」
梨里杏「時間合うかわからないね……食べる場所確保できるかすらも怪しい」
蓮「とりあえず外に出るか」

2人はロビーに向かった。

蓮「やっぱり多いな……椅子が空いてない」
梨里杏「……ここにいる人、みんな放送部なんだね」
蓮「当たり前だろ?」
梨里杏「そうだけどさ、なんかすごいなぁって思って」
蓮「?」
梨里杏「みんな同じ放送部なのに、作るものは全く違って、放送部の数だけできる作品があって……蓮」
蓮「なんだ」
梨里杏「私を放送部に誘ってくれてありがとう」
蓮「ったく、ここで言うなよ……そういうのは全部終わってから言うもんだろ」
梨里杏「たしかにね」


◯市民文化センター、第2ホール
昼休憩が終わり、審査が再開された。

梨里杏「……次だ」
司会「32番。市立南丘高校、『あの日をもう一度』」
梨里杏・蓮(……始まった)

司会が題名を読み上げ、少したつと流れ始めた。

『創作ラジオドラマ、あの日をもう一度』

梨里杏(……会場の機材が良いからかな、いつもと違って聞こえる)

『百合、好きだ。ずっと前から、お前のことが大好きだ』
『私も……蓮のこと、ずっと大好きだよ』

梨里杏(……やばい、なんかドキドキしてきた)

『制作は南丘高校放送部でした』

クレジットコールが流れると、周りがざわざわし始めた。

女子生徒1「今の良かったよね……」
女子生徒2「ね!ちょっとキュンキュンした」
女子生徒1「恋愛のラジドラ作ろうって思ったことないから新鮮」
男子生徒1「俺は絶対やらないからな」
蓮「う……」

周りの知らない放送部の生徒が次々に感想を言い合っている。

梨里杏「ふふっ」
蓮「どうした?」
梨里杏「いや、知らない人がこんなに感想言ってくれてるの、嬉しくって」
蓮「ま……たしかにな」

司会「33番。市立太陽高校……」

途切れもなく、次々と進んでいく。

司会「以上を持ちまして、創作ラジオドラマ部門の審査を終了いたします」

蓮「終わったぁ……」
梨里杏「講評長かったね」
蓮「んー、体痛い」
梨里杏「……あ、小雪先輩の方も終わったって連絡来てた」
蓮「じゃ、ロビー戻りますか」

◯市民文化センター、ロビー
梨里杏「先輩!お疲れ様です」
小雪「お疲れさま」
蓮「どうだった?」
小雪「県大会なだけあってみんなレベル高かった」

小雪の表情は少し暗い。

梨里杏「決勝進出者の発表、明日の朝1番ですよね」
小雪「まあ、そうだね……今日は帰ろう、タニセンには伝えてあるから」
梨里杏「あ、はい……」

3人はそれぞれ帰路についた。

◯市民文化センター、大ホール(3日目、朝)

司会「それではただいまより、朗読・アナウンスの決勝進出者を発表いたします」

それぞれ上位20名が決勝に進出することができる。間髪をいれず、モニターに決勝進出者が表示された。

小雪「……」
梨里杏「……あ……」

小雪の名前は、そこになかった。

梨里杏「……っ」

梨里杏は少し泣いている。

小雪「……なんで梨里杏が泣くのさ」
梨里杏「私……っ、先輩のアナウンスが1番好きなので……っ!」
小雪「……ありがとう」

小雪の目にも涙が溜まっている。

小雪「……まだだよ、まだラジドラが残ってる」

4人は一度ホールをあとにした。

◯市民文化センター、ロビー
谷口「……このあと、どうする?」
小雪「私はアナウンスの決勝見てくる。最後のけじめとして、見なきゃ気がすまない」
梨里杏「私は……テレビドラマ見てみたいです」
蓮「俺はテレドキュかな」
谷口「全員ばらばらだな……じゃあ、終わったら各自連絡してくれ」

谷口は雰囲気を察したのか、単独行動を許可した。4人は別の場所に向かっていった。

◯市民文化センター、大ホール(4日目)
司会「ただいまから、結果発表を行います」

個人部門は上位8名が、番組部門はそれぞれ上位3作品が全国大会に進むことができる。

司会「最初はアナウンス部門からです」

モニターに結果が表示される。

小雪「……やっぱりあの子は行くよな、あの子もだ」

アナウンス、朗読、テレビドラマ……と次々発表され、とうとうラジオドラマの発表の時間がきた。

梨里杏「吐きそう……」
蓮「俺も……」
小雪「大丈夫、大丈夫」
谷口「頼む……」

モニターに結果が表示される。

梨里杏「……奨励賞?」
蓮「は、え?」

南丘高校『あの日をもう一度』奨励賞と書かれている。つまり。

梨里杏「……っ、あと一歩だったのに……!」
蓮「まじかよ……」

梨里杏と蓮の目には涙が溢れている。小雪の目にも涙が溜まっている。

小雪「……泣くのはまだ早いよ、奨励賞でも表彰されるんだから」
谷口「っ、そうだそうだ、立派なもんだ!胸はって行って来い!」

梨里杏と蓮は表彰台に向かった。嬉しさと悔しさという相反する複雑な気持ちを抱えながら表彰状を受け取った。

◯市民文化センター、ロビー
小雪「みんな、まずは4日間お疲れ様でした。そしてラジドラ、奨励賞おめでとう」
梨里杏「っ……ぅぅ……」
小雪「……泣かないでよ、これは2人がめっちゃ頑張った結果なんだから、誇りに思うべきだよ」
蓮「……っ、そうだよな、そうだよ……」
谷口「少なくともお前らは、この日のために1番頑張ってきた。門田は必死にアナウンスをして、県大会に出場。梨里杏と蓮は作ったこともないラジドラに挑戦して、地区大会では最優秀賞、県大会では奨励賞……だからこそ、悔しいだろうが、それでも絶対無駄にはならない。俺が保証する」
蓮「……先生……」
谷口「今日はゆっくり帰って休め、明日学校だからな」
小雪「……じゃ、私先帰るね」
梨里杏「……はい、お疲れ様でした」
蓮「おつかれ……」

4人はそれぞれ帰路についた。
< 11 / 12 >

この作品をシェア

pagetop