あの日の第二ボタン
出会いの倉庫
四月十七日木曜日。
昼休みの校庭は五月下旬並みの暖かさで長袖のジャージを着ていると汗ばむ陽気だった。
校庭で遊ぶ生徒たちも長袖を脱ぎ捨てて遊んでいた。
優人は体育委員のボール当番として、ボールの管理をしていた。
体育倉庫の日陰で壁に寄りかかり、遊ぶ生徒を遠目に見物していた。暑い校庭とは対照的に、体育倉庫の中は冬の名残が残っていた。
空気が抜けたボールを探していると、春風が吹き込んできて倉庫のシャッターが微かに揺れた。
優人はその音の方へと視線を向ける。
すると、そこには同じ体育委員の中学一年生の女子が立っていた。
風で髪がふわりと舞い上がる。
優人は時間の進みがゆっくりに感じた。
遠くの方、サッカーゴールの向こう側でボールの音や生徒たちの笑い声がかすかに聞こえる。
優人は先週の委員会の集まりでの自己紹介を思い返す。
一年四組の山本悠依(ゆい)です。吹奏楽部に入部しました。五歳の時からフルートを吹いています。あまり運動は得意ではないんですが、よろしくお願いします。
(ゆいさん、だったっけ……)優人はかろうじてその子の名前を思い出した。
ふと、悠依が優人の方を振り向き、二人の視線が交差する。
しかし、お互いに恥ずかしくなり目を逸らしてしまう。
「……」
居心地の悪い沈黙が体育倉庫を支配する。
暑さのせいか、それとも沈黙のせいか、吸い込む空気が重く、息苦しい。
二人の間にボールが転がってきて止まる。
優人はそのボールを拾い上げ、校庭に蹴り返そうとするが、変な方向へ飛んでいってしまう。
「ははっ。やっぱり野球部はボール蹴るのが下手だなぁ。」
柴橋先生が笑っていた。
彼は角刈りのせいで謎に威圧感があるが、実際に話してみると親しみ深い人である。
優人と悠依は空気が和んだのを感じて、緊張の糸がほつれた。
柴橋はそんな二人の心の内を知るよしもなく続ける。
「宮田は長川高校を目指すんだろ?うちの学力トップは長川に行くのが常だからななぁ。あそこは野球部の強豪でもあるから一石二鳥だな。」
「はい、もちろんです。」
優人は誇らしげに答える。
悠依は目の前にいる男子生徒が神童のような存在であることに驚愕する。
「次の定期テストも一位獲って見せます!」
優人はさっきの気まずさは忘れ去り、柴橋に高らかに宣言する。
柴橋は満足そうに頷く。
(生きてる世界が違う……私なんかただの落ちこぼれだよ……)悠依は優人の優等生ぶりに圧倒された。
昼休みの校庭は五月下旬並みの暖かさで長袖のジャージを着ていると汗ばむ陽気だった。
校庭で遊ぶ生徒たちも長袖を脱ぎ捨てて遊んでいた。
優人は体育委員のボール当番として、ボールの管理をしていた。
体育倉庫の日陰で壁に寄りかかり、遊ぶ生徒を遠目に見物していた。暑い校庭とは対照的に、体育倉庫の中は冬の名残が残っていた。
空気が抜けたボールを探していると、春風が吹き込んできて倉庫のシャッターが微かに揺れた。
優人はその音の方へと視線を向ける。
すると、そこには同じ体育委員の中学一年生の女子が立っていた。
風で髪がふわりと舞い上がる。
優人は時間の進みがゆっくりに感じた。
遠くの方、サッカーゴールの向こう側でボールの音や生徒たちの笑い声がかすかに聞こえる。
優人は先週の委員会の集まりでの自己紹介を思い返す。
一年四組の山本悠依(ゆい)です。吹奏楽部に入部しました。五歳の時からフルートを吹いています。あまり運動は得意ではないんですが、よろしくお願いします。
(ゆいさん、だったっけ……)優人はかろうじてその子の名前を思い出した。
ふと、悠依が優人の方を振り向き、二人の視線が交差する。
しかし、お互いに恥ずかしくなり目を逸らしてしまう。
「……」
居心地の悪い沈黙が体育倉庫を支配する。
暑さのせいか、それとも沈黙のせいか、吸い込む空気が重く、息苦しい。
二人の間にボールが転がってきて止まる。
優人はそのボールを拾い上げ、校庭に蹴り返そうとするが、変な方向へ飛んでいってしまう。
「ははっ。やっぱり野球部はボール蹴るのが下手だなぁ。」
柴橋先生が笑っていた。
彼は角刈りのせいで謎に威圧感があるが、実際に話してみると親しみ深い人である。
優人と悠依は空気が和んだのを感じて、緊張の糸がほつれた。
柴橋はそんな二人の心の内を知るよしもなく続ける。
「宮田は長川高校を目指すんだろ?うちの学力トップは長川に行くのが常だからななぁ。あそこは野球部の強豪でもあるから一石二鳥だな。」
「はい、もちろんです。」
優人は誇らしげに答える。
悠依は目の前にいる男子生徒が神童のような存在であることに驚愕する。
「次の定期テストも一位獲って見せます!」
優人はさっきの気まずさは忘れ去り、柴橋に高らかに宣言する。
柴橋は満足そうに頷く。
(生きてる世界が違う……私なんかただの落ちこぼれだよ……)悠依は優人の優等生ぶりに圧倒された。