あの日の第二ボタン

近くて遠い存在

優人は木曜日が待ち遠しくなった。
廊下で悠依の姿を見つけると自然と目で追ってしまう。
優人は心の中で沸々と湧き出すこの感情が何なのかまだ知らないでいた。
(最近なんか、変な感覚……)優人が教室で黄昏れていると、後ろから声がした。

「なんか、最近上の空じゃない?……もしかして、恋しちゃってる系男子?ついにひろにも春到来!」

咲だった。
優人はため息をついて「なんだ、さきかぁ……」と呟く。
咲はむすっとしながら優人に言った。

「私が恋バナの相手してあげよっか?女子は恋バナが大好物なんだよ?」

「お呼びじゃないです!ってか、恋なんてしてねぇし!」

 優人はムキになって言った。

「素直じゃないなぁ……」

咲は残念そうに言って立ち去った。
「恋」この一文字が優人の心に引っかかっていた。


「おい、宮田!集中しろ!」

優人は部活中、顧問に突然名前を呼ばれ我に帰った。
どうやら相当気を抜いていたらしい。
優人は普段はエラーしないような簡単なゴロも弾いてしまった。

チームメイトは「ドンマイ!」と言って優人を励ますが、優人は自分が部活中に気が抜けたことに驚きを隠せなかった。

トラックでは陸上部のスタートの合図が鳴り響き、校庭の遠くの方ではサッカーゴールにボールが当たる音が校舎に反射してこだましていた。
体育館からはバスケ部の笛の音がかすかに聞こえ、音楽室からは金管楽器や木管楽器の和音が聞こえた。
何もかもがいつの通りだったが、優人は今までとは何かが違う違和感を抱いていた。

部活が終わり下校時間になると、太陽はとっくに山の後ろに隠れ、あたりは薄暗くなっていた。

優人は部活中のミスを引きずり校門への足取りが重かった。
校門から出たところは車道に面していて、押しボタン式の横断歩道を渡らなければいけなかった。
校門前は信号待ちの生徒でごった返していた。
しばらくすると、横断歩道の信号が青になった。
群衆が進み始めたその先に悠依がいるのを優人の目線が捉えた。

「あっ……」

優人は心拍数があがっていくのを感じた。
悠依の姿を捉えた途端、疲れやミスの悩みなどどこかに消え去っていた。
(……おれ、恋、してるのか……)
優人は心の中でつぶやいた。
優人は薄暗い景色が鮮やかに見えた。
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