あの日の第二ボタン
「ふぅ。」

優人は息をつく。
(……後二分で昼休み……)胸を打つ鼓動がクラス中に響きそうだった。
優人は時計の秒針を見つめる。
やがて秒針と長針が時計の頂上に登る。
スピーカーからチャイムが鳴り響くのと同時に、優人は食器を片付け秒針よりも速いスピードで体育倉庫へ向け疾走する。

体育倉庫に到着してもなお、心臓の鼓動が鎮まる気配がしない。
まるでアイドルの握手会に並んでいるかのような期待と緊張が体育倉庫を支配する。
優人は手持ち無沙汰で当番管理表に帳簿された名前を辿る。
空では雲が次々と太陽の下を通過し、校庭は日向と日陰を繰り返す。

日向の訪れとともに、悠依が体育倉庫へ到着する。
悠依は優人がいつもより早く来ていることに驚きながらも挨拶する。

「あ、お、お疲れさまです……」

慣れない感じだ。
部活の先輩にはあんなに元気に挨拶できるようになったのに。

優人も悠依も話しかけようとお互いの様子を伺うが勇気が出ない。
悠依が話題を探しているうちに昼休みの終わりを告げる予鈴がなってしまった。
いつもより昼休みが短く感じていた。


優人は時計を見つめていた。
先週と同じだった。

(一分、一秒でも早く)
昼休みだけは陸上部だった。
チャイムの余韻が消える頃には、優人は昇降口にいた。
体育倉庫が刻一刻と近づいて見える。

先週の反省を生かし、優人は話の話題を考えてきた。
しばらくすると悠依が小走りで体育倉庫へ到着する。
顔が火照って赤くなっている。

「……今日は、ちょっと、暑い、ですね……」

悠依は顔を手で仰ぎながら言った。

「そうですね……」

優人はそんな悠依を見て見惚れてしまい言葉が思うように出なくなってしまう。
初夏を感じさせる生ぬるい風が体育倉庫内に吹き込む。

口を開かず沈黙が続く二人とは対照的に、校庭では生徒たちで賑わっていた。

優人は意を決し、準備していた話をしようとする。

「……あ、あの、ゆいさんって……」

優人の言葉を遮るようにチャイムが校庭に響き渡る。
なんで三十分もあるのにこんなにも話せないのか。
優人は緊張強いな自分にうんざりした。

優人はボールを回収し終わると、「ま、また来週。」と悠依に声をかけ、恥じらいを隠すようにそそくさと校舎へと踵を返した。

「また来週会えるし、この話はまた来週しよう。」そう思って午後の授業に挑んだ。
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