罪深く、私を奪って。
誰に対しても冷たいのかと思っていたのに、なんだか意外……。
マンションに向かって歩いて行く後ろ姿を見ながらそんな事を考えていると、彼のギャップの理由がわかった。
そっか……、亜紀さんだ。
思い出したのは、酔い潰れた亜紀さんを平然と抱き上げて、車に乗せる石井さんの姿。
そっか。
いつも酔っぱらった亜紀さんを運んであげてるから、女の子を抱き上げたりするの慣れてるんだ……。
当然のように私を抱き上げた仕草に、石井さんと亜紀さんの、ふたりが過ごしてきた時間の長さを感じて、なぜか胸が苦しくなった。

シンプルな外観のそのマンションは、エントランスもエレベーターも同じように無駄のない造りだった。
結局ここがどこなのか教えてくれなかったけど、やっぱり石井さんの家なんだろうな。
何も考えずに石井さんにここまで連れてこられて来てしまったけど、このまま部屋に入っていいのかな……。
エレベーターから降りて、鍵を取り出した石井さんを見て、彼の部屋に来てしまったんだという実感がわいてきた。
「あ、あの石井さん……」
やっぱり私家に帰ります。
ドアに鍵を差し込む石井さんにそう声をかけようとすると、
「動物は大丈夫なんだよな?」
と、私を振り返って不思議な質問をしてきた。
「動物?」
「アレルギーとか、喘息とか」
「あ、大丈夫です」
私が頷くのを確認すると、石井さんはドアを開けた。
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