罪深く、私を奪って。
……なんて、訳のわからない想像をする私は、やっぱりちょっと情緒不安定だ。
石井さんと亜紀さんが付き合ってるなんて、そんな事最初から分かり切っていたのに。
今更石井さんの部屋の中に亜紀さんの影を探して怯えるなんて、馬鹿げてる。
「まだ寒いか?」
ブランケットを肩にかけ、温かいコーヒーの入ったカップを持つ私を見下ろして石井さんがそう聞いてきた。
両手に持ったカップの中の黒い水面は、まだ小さく揺れていて、それを見て自分がまだ震えているのに気が付いた。
「寒くは、ないです」
治まらない小さな震えは、寒さのせいじゃなくて……。
コーヒーカップをテーブルに戻しながらそう石井さんに言おうとした時、二人掛けのソファーに、石井さんが腰を下ろした。
ぎしりと小さくソファーが沈み、体が自然と石井さんの方へと傾きそうになる。
急に近くなった二人の距離に、慌てて私が彼とは反対の肘置きの方へと体を反らすと、石井さんの手が私の肩を引き寄せた。
バランスを崩した私の体は石井さんの腕一本で簡単に反転させられていて、気づけばソファーの上に押し倒されていた。
「い、石井さん……?」
私の顔の横に両手をつき、黒い瞳を微かに細めて無言で私を見下ろす彼。
その視線が、私の顔からゆっくりと足元へと下がっていく。
決して広いとは言えない二人掛けのソファーの上に、押し倒された状態で。
平静を装うには密着しすぎた体と体。
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