罪深く、私を奪って。
そう思っていると、石井さんが運転席から身を乗り出し、助手席に座る私に覆いかぶさるように顔を近づけた。
まるでキスをするかのように近づいた彼の顔。
吐息がかかる距離で、石井さんはまっすぐに私の目を見て言った。
「郵便受けに入ってた写真にさぁ、車の中でこうやって永瀬に迫られてる写真あったけど、あいつにキスでもされた?」
「……っ!! ちっ、違いますよ! ただ車のドアの取っ手の場所がわからなかったから、永瀬さんが開けてくれただけで……」
私が慌ててそう言うと、石井さんは納得したのか「ふーん」と言いながらゆっくりと私から体を離した。
そして車のキーを差し込みながら、
「なんだ、迫られれば誰とでもキスすんのかと思った」
なんて、冷たい声で言う。
「誰とでもなんて……ッ!! そんな事ないです!」
ムキになってそう言った私をおもしろがるように、横目でちらりと見て彼は小さく笑った。
「あっそ」
素っ気なくそう言って車を発進させる。
なんだ、またからかわれたんだ。
一人でムキになってバカみたい……。

ゆっくりと近づいてくる見慣れた景色。
アパートの前で車を止めた石井さんが、確認するように私の表情を窺った。
「ついたけど」
「あ、ありがとうございました」
「部屋まで送る」
シートベルトを外してドアを開けた私に、石井さんも同じように車の外に出て来た。
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