罪深く、私を奪って。
固く結んだ私の唇の上を、ぺろりと湿った舌がなぞった。
「ん……!」
唇を舐められた。
その感触に驚いて目を開けると、
「……口、開けて」
耳元で響いた艶のある低い声。
その声はずるい。
そんな色っぽい声で耳元で囁かれて、抵抗できる人なんているんだろうか。
今まで私を支配していた恐怖も理性も簡単に壊して、私を翻弄する男。
素直に薄く口を開いた私に、その狡い男が小さく笑った。
優しく噛むように冷たい唇が重なったかと思うと、薄く開いた隙間から熱い舌が差し込まれた。
抵抗するのも忘れて、必死で彼のキスを受け止める。
軽く傾けた彼の顔に、黒い髪が乱れてかかっていた。
髪の間からまっすぐに私を見据える黒い瞳。
激しいキスをしながら、されるがままの私を見て小さく笑った。
その男の色気に簡単に心を奪われる。
どうかしてる……。
こんな状況で、こんな場所で、こんなキスをするなんて。
理性とか、ルールとか。
この人の前ではこんなにも簡単に、本能がそんな言葉を乗り越える。
私をドアに押さえつけ自由を奪っていた石井さんの腕から、ゆっくりと力が抜けた。
かわりにその手が今度は優しく私の髪をなでる。
自由になった私の腕は、石井さんの胸を力いっぱい押し返すことだって出来るはずなのに。
理性を溶かす強引なキスに身をまかせながら、私は彼の洋服の裾をぎゅっと握った。
 
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