罪深く、私を奪って。
もしよかったら、と言いながら沼田さんが遠慮がちに、大きな紙袋を差し出した。
なんだろうと手を出すと、ずっしりと重い手ごたえ。
そして中から甘酸っぱい香りがした。
「よかったらどうぞ。うちの実家で作ったミカンです。毎年箱で送って来るんですよね。ひとり暮らしだからこんなにいらないって言ってるのに」
「でも、こんなに沢山もらっちゃっていいんですか?」
「迷惑じゃなければ。ホント腐るほどあるんで、食べてください」
私がミカンを受け取ると、沼田さんは「それじゃあ」と頭を下げて私に背を向けた。
全てをの思いを吐き出して、すっきりしたようなその後姿は、会社で見る沼田さんの姿よりずっと清々しく感じた。

沼田さんからもらったミカンを持って久しぶりに実家に帰ると、お母さんが嬉しそうに出迎えてくれた。
「わぁ美味しそうなミカン!」
「会社の人がくれたの。和歌山の実家がミカン農家なんだって」
懐かしい匂いのする実家のリビングで、綺麗な丸いミカンの皮をむく。
「すごい美味しいわねこれ」
「うん……」
しかりと身のつまった鮮やかなオレンジ色のミカンは、瑞々しくて味が濃くてとても美味しかった。
「そういえば、詩織来週の土曜日って何か予定ある?」
「土曜? 別に空いてるけど……」
「よかった! じゃあお見合い土曜日にしましょう」
まるで子供みたいに無邪気に喜ぶお母さんに、
「は?」
思わず間抜けな声が出た。
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