罪深く、私を奪って。
「…………」
なんていうか、すごく石井さんらしい。
人の為にしれっと行動してしまう。
見返りなんて求めてない、感謝されたくもない。
だから一見冷たく見えるけど、本当は優しいその人。
沼田さんの言葉に、石井さんへの気持ちが溢れてきゅっと心臓が苦しくなった。
「あ、そろそろ時間ですね。すいません引き留めて」
腕時計を見て沼田さんがそう言った。
言われて私も時計を見ると、もうすぐ業務開始時刻。
「あ、あの! ミカンとても美味しかったです。ありがとうございました」
エレベーターのボタンを押しながらそう言うと、沼田さんは嬉しそうに笑った。
「よかった。でもあんなにたくさん渡しちゃって迷惑じゃなかったですか? 食べきれなかったら無理しないでくださいね」
「実家に持っていったんです。両親も美味しいって喜んでました」
「そうですか。もしよかったら、来年も和歌山から送りましょうか? 箱でドーンと……」
自分の両親が作ったミカンを美味しいと言ってもらえた事がうれしかったんだろう。
明るい顔でそう言いかけた沼田さんの前でエレベーターのドアが開いた。
「……なんて。やっぱり僕からミカンを送るなんて迷惑ですよね」
開いたエレベーターに乗り込みながら、沼田さんは首を振った。
「迷惑だなんて、そんな事……」
< 150 / 193 >

この作品をシェア

pagetop