罪深く、私を奪って。
たとえば人の記憶も、デジカメの中のデータみたいに簡単に消してしまえたらいいのに。
そうすれば、こんな事で悩んだりしなくてすむのに。
もしひとつ記憶を消せるとしたら、きっとあの日を選ぶと思う。
酔いつぶれた亜紀さんを迎えにきた石井さん。
たぶん、あの時から私は彼に惹かれていたんだ。
この人は亜紀さんの彼氏だ。
そう何度も言い聞かせて自分を誤魔化していたけど。
石井さんの車の中で、初めて近くで視線を合わせた時。
きっとその瞬間から、私の心は彼に奪われていた。

月曜日、火曜日、水曜日……。
私の悩みや迷いとは関係なく、1日24時間で規則正しく日々は過ぎていく。
カレンダーの日付が、ひとつひとつ土曜日のその日へと近づくたびに、ため息の数が多くなる。
今更告白してどうなるの?
だって石井さんは亜紀さんと結婚するのに。
自分からわざわざ傷をつくるなんて馬鹿げてる。
そう思う反面、思い出すのは沼田さんの言葉。
私も想いをぶつけてしまえば、ああやってすっきり笑って諦めることができるんだろうか。
心からふたりの結婚を祝福する事ができるんだろうか。
数えきれないくらい繰り返し自分の胸に問いかけてみたけど、答えなんて出るはずがなかった。

ひと気のない休憩室。
静かなそこはため息がやけに大きく響いて余計に気が滅入る。
気付けば今日はもう金曜日。
明日には石井さんと亜紀さんは婚約してしまう……。
< 152 / 193 >

この作品をシェア

pagetop