罪深く、私を奪って。
永瀬さんは私の手の中からゆっくりとコーヒーの缶を抜き取りながら、ニヤリと笑った。
「いつも同じものを飲む人が、急に自分の好みとまったく違うものを飲む時って、現状に満足できてない状態なんだって」
「満足できてない……?」
突然心理テストみたいな事を言いだした永瀬さんに、意味が分からず首を傾げた。
「で、女の人がいつもは飲まない、男性的なイメージの強いブラックコーヒーなんかを選ぶのって、欲求不満の現れなんだって」
「…………ッ!」
さっきまで私の手の中にあった黒い缶を、顔の横で揺らして意味深に笑う永瀬さんに、カッと頬が熱くなった。
「あ。図星だった?」
永瀬さんがにやりと笑いながら、持っていた缶コーヒーから指を離した。
その手を離れた黒い缶が、重力に従い静かに落下していく。
あ、缶が落ちちゃう……
思わず缶に向かって身を乗り出し手を伸ばした時、永瀬さんにその腕を掴まれた。
「え……?」
ひと気のない休憩室に、スチール缶が床にぶつかり転がる音が大きく響いた。
そして耳元に聞こえる永瀬さんの息遣い。
私の体は永瀬さんに引き寄せられ、その胸の中に抱きしめられていた。
「欲求不満で寂しいなら、俺がなぐさめてあげようか?」
いつもは明るい笑顔で軽口を叩いてばかりのその声が、男らしい艶を帯びて私の鼓膜を震わせた。
スーツからふわりと漂った煙草の苦い香り。
でも、それは私の求める香りとは違った。
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