罪深く、私を奪って。
どこまでも優柔不断で憶病な私は、石井さんを苛立たせる。
「わ、私お見合いするんです。明日……!」
二人きりの薄暗い会議室に、私の上擦った声が響いた。
そんな事言ったって、石井さんはどうでもいいに決まってるのに。
もしかしたら、私のお見合いに石井さんが少しは動揺してくれるんじゃないかなんて、嫉妬してくれるんじゃないかなんて。
馬鹿げた事を願ってしまう。
「ふーん」
「小学校の時の、同級生と……」
「それで?」
私の声を、石井さんが遮る。
耳元で、獣が唸るように静かに低い声が響いた。
「それで? 何が言いたいわけ?」
綺麗な黒い瞳が、まっすぐに私を見ていた。
人に嫌われるのが怖かった。
自分で何かを選ぶのも、自分の意見を言うのも苦手だった。
周りに気を使って、自分の気持ちを隠して笑って。
それで平穏に暮らせるならそれが一番だと思ってた。
でも……
「好き、なんです。石井さんが……」
でも、この人はその冷たい瞳で、簡単に私を狂わせる。
「亜紀さんと付き合ってる事なんて、最初から知ってました。明日結納するのもわかってる。だけど、どうしようもないくらい……」
ふ、と小さく息を吐いて石井さんが笑った。
私をみつめる冷たく黒い瞳が、熱を帯びる。
「どうしようもないくらい?」
「石井さんの事が……」
好きなんです。
そうつぶやいた私の震える声は、石井さんの唇に塞がれて耳には届かなかった。
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