罪深く、私を奪って。
「いつも詩織がお世話になってます。素敵ですねー。結納はやっぱりお着物ですよね」
「ありがとうございます。結婚したら振袖着れなくなっちゃうから無理やり娘に着せたんですよ。本人には嫌がられたんですけどね」
同じ年頃の娘を持つ親同士、亜紀さんの両親とお母さんは初対面なのに楽しそうに立ち話を始めた。
「詩織は家族で食事?」
「私は……」
一瞬口ごもってから、迷いをふっきるように顔を上げた。
「お見合いなんです。これから」
「は? お見合い!?」
目を丸くした亜紀さんに向かって、笑顔を作り頷く。
そう。私はお見合いするんだ。
そして亜紀さんと石井さんは結納を交わす。
同じ日に、同じホテルでそんな事があるなんて。
もういい加減諦めろって、神様が言ってる。
「お母さん、盛り上がるのはいいけどあんまり引き留めちゃ迷惑だよ。これから亜紀さん結納なんだから」
「あら、そうね。すいません。つい話しこんじゃって」
時計を見て慌ててそう言ったお母さんに苦笑いしながら、亜紀さんに頭を下げた。
「それじゃあ。亜紀さん、幸せになってくださいね」
それは、強がりでも社交辞令でもなく、心からの言葉だった。

石井さんの事が好きだという想いを、簡単に忘れることは出来そうにないけど。
目の前で幸せそうに笑う亜紀さんの笑顔は、やっぱり素敵で大好きだと思った。
亜紀さんにはいつまでも、太陽みたいに笑っていて欲しい。
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