罪深く、私を奪って。
「で、すぐに野村さんのお父さんとお母さんが探しに来てさ。とりあえず子猫が弱ってるからって、うちの実家の動物病院に運んだの」
それは、なんとなく覚えてる。
子猫を処置している間、私は竹本くんのおうちの動物病院の前で待ってたっけ。
病院の中はやっぱり動物の毛が多くて、私はアレルギーの症状が出ちゃうから外にいなさいって言われて。
ずっと抱きしめていた子猫を取り上げられたような気分で、悲しくて一人で泣いてた気がする。
「その猫を診察してる時、俺こっそり窓から野村さんの様子をのぞいたら見えちゃったんだよ。優しく慰めるみたいに、タダシが泣いてる野村さんにキスしてるの」
どうしてだろう。
凍えるような寒い夜に、初めてキスをした冷たい唇の感触は覚えているのに、タダシくんの記憶だけ選んで抜き取ったみたいに私の中から抜け落ちてる。
「俺悔しくってさ、次の日学校でみんなに言ったの。野村さんとタダシがキスしてたって。そしたらクラスの女子がみんな怒ってさ、野村さんを無視しだして。今考えたらタダシは女子にすげー人気あったし、そんな事言ったら野村さんが反感かっちゃうの当たり前なんだけどさ。その頃俺なにも考えてなかったから」
なんでだろう。
子猫を抱いて家出したのも、女の子たちに無視されたのも、こんなにはっきり覚えているのに。
肝心のタダシくんの事だけが、靄がかかったみたいにひどく曖昧だ。
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