罪深く、私を奪って。
まるでわざと記憶を消してしまったように。
「覚えてない?」
呆然と中庭の山紅葉を眺めていた私を心配したように、竹本くんが私の肩に触れた。
「ごめん、ちょっと混乱してる……」
「きっと、嫌な事は忘れちゃったんだよ」
「嫌な事?」
「タダシの事」
タダシくんの事は、私にとって嫌な記憶だったって事?
確かに女の子たちに無視されたのは悲しかったけど。
だからってその原因になったタダシくんの事だけを忘れる?
「ほら、野村さん泣いてたじゃん。タダシに冷たい事言われて」
冷たい事……。
返事をする代わりに、眉をひそめて小さく首を左右に振った。
覚えてない。
そんな忘れてしまいたくなるくらい、酷い事を言われたの?
「こいつの事なんて好きじゃないって。タダシにみんなの前で冷たく言われて泣いてたじゃん。忘れちゃった? 石井タダシの事」
「…………っ!」
別に、こいつの事なんて好きじゃない。
黙って俯いてんの見るとイライラする。
耳の奥によみがえったのは、幼い男の子の冷たい声。
瞬きと一緒にポロリと一粒、涙がこぼれた。
「思い出した?」
……思い出した。
クラスのみんなの前で宣言するように私を嫌いだと言ったタダシくん。
女の子たちに無視されて、大好きだったタダシくんにまで好きじゃないと言われて。
悲しくて悲しくて、忘れてしまおうと思った。
好きだったタダシくんの事も、あの冬の夜の冷たいキスの事も全部。
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