罪深く、私を奪って。
全部忘れてしまおうと思ったんだ……。
ようやく、はっきりと思いだした。
黒い髪、少し冷たく見える綺麗な瞳。
静かに話す大人びた声。
でも不意に見せる優しい表情。
その大好きだった男の子は、いつだって私を翻弄して意地悪に笑う。
どうして思い出せなかったんだろう。
まだ幼かった私の恋心も、そして大人になった今も。
いつだって私の心を強引に奪ってしまうのは、彼だったのに。

幼い初恋の相手の男の子と、今私の胸を焦がす意地悪なあの人。
その面影がぴったりと重なってひとつになった。
石井さんが、私の初恋の相手、タダシくんだったんだ……。
思い出せなかった自分が信じられないくらい、幼い男の子の面影は、今の彼に残ってる。
馬鹿な私は十数年越しに、2度も同じ人に失恋したらしい。
しかもこんなに無様に情けなく。
ゆっくりと両手で顔を覆い、長い息を吐き出した。
泣いてしまいたい。
思いきり、子供みたいに。
もう、自分が情けなくて馬鹿馬鹿しくて、思いきり声を上げて泣きたい気分だった。

「ごめん、野村さんショックだった?」
ショックです。色んな意味で。
でも、こんな事を直接本人に言ってくれるのは、デリカシーに欠けるくらいどこまでも正直な竹本くんくらいだろう。
彼が言ってくれなかったら私は一生思い出せなかったかもしれない。
石井さんが、同級生だったってことに。
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