罪深く、私を奪って。
私が追い詰められたのは、ただリビングの端ではなく寝室へのドアの前だったらしい。
本当にこの人は、どこまで余裕なんだろう。
背後で開いたドア。
その先にあるのはただベッドがあるだけの、殺風景な部屋。
視界に入ったベッドに、心臓が飛び出しそうになる。
この先に訪れるだろう展開を想像するだけで、もう血液が沸騰しそう。
そんな私の動揺をすべて見通すような余裕な顔で、石井さんが耳元で囁いた。
「追いかけっこはおしまいか?」
……勘弁してください。
だってこれ以上後ずさったら、そこにあるのはベッドだけ。
自分からそこに飛び込む度胸はとてもないし、それよりなにより心の準備が……。
「じゃあ、遠慮なく捕まえるけど?」
「え……?」
突然の捕獲宣言。
驚いて石井さんの顔を見上げると、彼は小さく笑って軽々と私の体を抱き上げた。
床から離れて自由を奪われた私の体は、その直後乱暴にベッドの上へと放り出される。
ぼすん、と音をたててベッドの上に落とされた。
「い、石井さん……?」
万事休すとか、絶体絶命とか。
好きな人に抱き上げられてベッドへ連れてこられたっていうのに、絶望的な言葉ばかりが頭に浮かぶのは、私を見下ろすこの人の、余裕に満ちた表情のせいだと思う。
この人が私の半分くらい、いやせめて十分の一でも動揺した表情を見せてくれたらいいのに。
「……ま、待って!」
「何?」
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