罪深く、私を奪って。
まるで時間をかせぐように、いつもよりゆっくり着替えをして更衣室から出ると、休憩室の一角、ガラスで区切られた喫煙スペースに石井さんの姿があった。
私に気づいた石井さんは、手にしていた煙草を備え付けの灰皿に押し付けるようにして消し、ゆっくりと喫煙スペースから出て来た。
「あ、お疲れ様です……」
軽く頭を下げた私の鼻腔をくすぐる、煙草の苦い残り香。
なんかこの匂い、大人の男の人って感じ……。
「行くか」
チャリ、と音をたててポケットから車のキーを取り出し歩き出す石井さんを、慌てて追いかける。
「あの、亜紀さんは?」
亜紀さんも一緒なんだよね?
もしかしてまだ仕事終わらないのかな。
「あいつはまだ残業じゃねえ?」
そっか。
じゃあ仕事が終わってから合流するのかな。
なんて思いながら、石井さんの後を追った。

「店、どこがいい?」
社員専用の駐車場に向かいながら、石井さんは私の事を振り向きもせずに聞いてきた。
「え?」
「なんか食いたいものある?」
「えっと……」
唐突にそう聞かれても、困るよ。
それじゃなくても、こっちは歩幅の広い石井さんに追いつくだけで精一杯なのに。
小走り気味になりながら彼の後を追い、頭の中で食べたいものを必死に考える。
石井さんは何を食べたいんだろう。
女の子同士なら、デザートの美味しいお店とかに行くんだけど。
石井さんは甘い物好きかな?
< 30 / 193 >

この作品をシェア

pagetop