罪深く、私を奪って。
悔しくて、今にもこぼれそうになる涙を必死でこらえながら、目の前の彼を睨んだ。
そんな私を面白がるように、冷たい黒い瞳が微かに細くなった。
長い腕が伸びてきて、私の顔にかかった髪をゆっくりと耳にかける。
そして露わになった耳元響く、低い声。
「そんな顔されると、余計に追い詰めて泣かせてみたくなる」
ぞくり。
鼓膜を震わせるその声に、背筋に一瞬電流が走った気がした。
まるで金縛りにでもあったかのように。
彼の声に、自由を奪われ。
彼の視線に、瞬きの仕方さえ忘れた。
気付けば、唇はまた重なっていた。

確か小学生だった頃。
同じクラスの大好きだった男の子とした幼いキス。
冬の寒い夜。
冷たい鼻をくっつけるようにゆっくりと顔を近づけ、恐る恐る触れた唇。
その唇も冬の空気にひやされて、冷たかったのを覚えてる。
それが私のはじめてのキスだった。
それから人を好きになる事もなく。
誰とも付き合う事なく。
恋愛とは無縁で生きてきた。
だから、私にとってのキスは、あの一瞬触れた冷たい感触。
それが全てだったのに。
その記憶を全てかき消すような、幼いキスとはまるで違う、乱暴で強引な口づけ。
その唇の生々しい感触に気が遠くなる。
小学校の頃大好きだった男の子はなんて名前だったっけ。
今はもう、顔も思い出せない。
まさかあの初めてのキスから十年以上経った今、こんなキスをするなんて思わなかった。
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