罪深く、私を奪って。
女性にしては背の高い亜紀さんが、長い髪を無造作に一つにまとめて颯爽と歩いていくのを、私はいつも受付のカウンターの中から憧れのまなざしで見ていた。
濃いグレーのシンプルで細身のパンツスーツが、すごく似合っててかっこいい。
優柔不断で口下手な私には、どんなに憧れたって営業なんて無理だってわかってるけど……。
そんな事を思いながら、会社から支給された自分の着ている薄い茶色の制服を見下ろして、ため息をついた。
「あ、そうだ。今日私残業なさそうだからさ、本当に飲みに行かない? なんか用事ある?」
亜紀さんの言葉に、慌てて顔を上げて頷いた。
「あ、大丈夫です!」
「じゃあ、仕事終わったら休憩室で待ち合わせしよ」
じゃあねー、と太陽みたいに明るい笑顔を私に向け軽く手を振りながら、亜紀さんは永瀬さんと一緒にエレベーターホールの方へと歩いていく。
ふたりとも、この会社ですごく目立つ存在だ。
美人なのに少しも気取らず、ガツガツと仕事をする男勝りの亜紀さんと、社内でも1、2のイケメンと評判の永瀬さん。
「私もあんな風に自分に自信を持てたらいいのになぁ……」
二人の後姿を見送りながら、大きなため息をついた。

「はぁー? 詩織が私みたいになりたいって?」
私の言葉に亜紀さんは、手にしていたビールジョッキをテーブルに置いて、目を丸くした。
「なにそれ。本気で? お世辞じゃなくて?」
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