罪深く、私を奪って。
「もちろん本気ですよ。私いつも外回りに出る亜紀さんを受付で見ながら、カッコいいなぁって憧れていたんですよ」
仕事帰りに来た、会社の近くの洋風居酒屋。
メニューの豊富さと、店の雰囲気がお気に入りの、私たちの行きつけのお店だった。
今日も仕事帰りらしいサラリーマンやOLで、空席が見当たらないほど賑わってる。
「え。詩織ちゃん、こんな女に憧れちゃダメだよ」
私たちの会話を聞いていた永瀬さんが、大袈裟に顔をしかめた。
「ダメって、永瀬どういう意味よ?」
「だって可憐で可愛い我が社のアイドルの受付嬢が、こんなガサツな女に憧れてるなんて、俺かなりショックなんだけど。お願いだから、こんな女にならないでよ詩織ちゃん!!」
「ガサツで悪かったね。ってか、誰もあんたの事なんて誘ってないのに、なんで当然のようにここにいるのよ」
目の前にあるソーセージの盛り合わせに乱暴にフォークを突き立てながら、亜紀さんは永瀬さんを睨んだ。
「ひでぇ。社内で1番イケメンだって女子社員の憧れの的の俺に、そんな暴言吐くのお前くらいだぞ」
確かに。
カッコよくて、明るくて、話しやすくて。
社内でもすごく人気のある永瀬さんに、こんな風に憎まれ口を叩ける女の人は、亜紀さんくらいかもしれない。
「嘘つけ。社内で1番人気なのは、あんたじゃなくて石井じゃん」
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