罪深く、私を奪って。
ずきん、と胸が痛んだのと同時に小さな違和感。
あれ?
なんだろう。この感じ。
「どうかした?」
急に黙り込んだ私に、亜紀さんは不思議そうに首をかしげた。
「あ、なんでもないです」
慌てて首を横に振って笑顔を作って見せる。
「大学の頃からいっつも私と石井と永瀬の三人で遊んでたんだけどさ。あいつら二人して人の迷惑考えずにスパスパ吸うから、私の肺の中にはあのバカ達のせいで5、6年分の副流煙が蓄積されてるんだよ。そう思うとムカツクよね」
飲み干したココアの缶を握りつぶしそうな勢いで、亜紀さんは怒った顔をしてみせる。
「いっそ私も煙草吸えばいいのか」
「それは余計にダメですよ」
「ええー、やられっぱなしは悔しいじゃん」
子供みたいなふくれっ面の亜紀さんに、思わず噴き出した。
「いいじゃないですか。代わりに亜紀さん飲むといつも酔っぱらって石井さんに迷惑かけてるんだから」
「ひっど! 詩織が酷い事を言う!!」
「私だって酔っぱらった亜紀さんに、お店でスカートめくられてすっごく恥ずかしい思いしたんですからね!」
笑い合いながらそんな話をしていると、不意にあの日、石井さんに送ってもらった車内での時を思い出した。
「……あ」
そうか。
さっき感じた小さな違和感。
煙草の残り香と、柑橘系のディフューザー。
石井さんの車内の匂いが蘇った。
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