罪深く、私を奪って。
自分の気持ちは後回しで、人の顔色ばかり窺ってしまう、卑屈で憶病な人間。
「本当に詩織ちゃんは頑固だね」
黙り込んだ私に永瀬さんは静かに言った。
「そんなに周りに気を使って、頑ななくらい自分を後回しにして。疲れない?」
「……人に嫌われるくらいなら、自分を押し殺している方がずっと楽ですから」
エンジン音にかき消されそうなくらい小さな声でぽつりと洩らした独り言。
それは運転席に座る永瀬さんの耳に届いたんだろうか。
永瀬さんは無言のまま咥えた煙草を大きく吸い込み、彼の口元の火種が赤く燃えた。

気が付けば、窓の外を流れる街の景色がすっかり夕暮れから夜へと移り変わっていた。
もうずいぶん陽が落ちるのが早くなったな、なんてぼんやりとしていると、
「何か原因でもあるの? 詩織ちゃんがそんな風に周りに気を使うようになったのって」
永瀬さんが前を向いたままでそう聞いてきた。
「別に……」
「言いたくないならいいんだけど」
私がはぐらかそうとした途端、あっさりと引かれてしまった。
そんなに簡単に引くくらいなら、最初から聞かないでくれたらいいのに。
ホッとしつつ、そう思っていると、
「言ってくれないなら、このまま家に帰さないよ」
永瀬さんはまたも爽やかな笑顔で、そんな脅迫まがいなセリフをさらりと言った。
「永瀬さん……」
「どうする?」
どうするって……。
この人は曲者の上に、ものすごくお節介だ。
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