舞子姉さんの古着屋さん奮闘記
 次の日もみんなが集まってきて最後の話し合いをしてます。 「何とか3人来てくれそうですよ。」
「そりゃあ良かった。」 「んでさあ経営者は誰?」
「私です。」 「そっか。 舞子さんね。 頑張ろうね。」
 「は、はい。」 「どうしたの? 元気出しなさいよ。」
「真子ちゃん プレッシャーはダメだよ。 初挑戦なんだから。」 「ごめんごめん。 言い過ぎた。」
 「それでさあ、こっちの空間はどうするの?」 「まだ何も考えてないよ。」
「えーーー? 何も考えてないの?」 「驚き過ぎだってば。」
ここ『舞子姉さんの古着屋さん』はこれからどうなるんでしょう? 何となくドタバタの予感が、、、?

 舞子さんのご主人はタクシーの運転手なんです。 朝から出掛けたり、夜に出て行ったり、、、。
数十年前とは違って待機している方が多くなったとか、、、。 昔は流していてもあっちこっちで呼び止められたもんですが、、、。
そうかと思えば顔見知りの運転手が何だいも寄ってきて「こっちにどうだ?」ってお客さんに声を掛けてたっけ。 今はそんなことも無くなったなあ。
 事務所で電話を受けてそれから出発。 お客さんを送り終えるとまたまた待機場所に戻ってきます。
そしてラジオを聞きながら次の出番を待つわけね。 雪の日なんて大変だったらありゃしない。
行くだけで倍以上の時間が掛かるし、そんな日には予約が次から次へと入ってくるし。
 遠出した時にはいつ帰れるかも分からない。 真っ暗になってやっと家に帰ってくることだって有る。
そんな時でも舞子さんはニコニコしながら出迎えてくれます。 羨ましい。
 「ただいま。」 「お帰りなさい。 吹雪 何ともなかった?」
「ハチャメチャだったよ。 除雪で待ちぼうけは食らうし通行止めはあっちこっちでやってるし、、、。」 「明日も仕事なんでしょう? 大丈夫なの?」
「何とも言えないよ。 出てみないと分からん。」 「そうよねえ。 お疲れさまでした。」
 冬の間は毎晩こんな話をしてます。 昼勤でも帰ってくるのは7時過ぎ。
結婚したての頃からずっとそうなんですよ。 子供が生まれた時も主人はタクシーに乗ってました。
 一通り仕事を終えてから病院に飛んできてくれました。 「生まれたかーーーーー。」
長男の孝弘が生まれた時も長女のあゆみが生れた時もそうでした。 そしてね、毎日病院に来てくれたんですよ。
 そんな子供たちも小学生。 大きくなったわねえ。

 舞子さんは大きな空間を見回してあれやこれやと施策を巡らせているようですが、、、。 「そこはまだだよ。 こっちで何処までやれるか試さないと、、、。」
「そうよねえ。 こんなに広いんじゃ困っちゃうわ。」 「スーパーだったんだもん。 しょうがないよ。」
 「康子さーーーん、 何かアイデアは無いの?」 「とっさに言われても困るわよ。」
「そういう真子ちゃんは何か有るの?」 「私も無いのよ。」
「それじゃあダメじゃないよ。 まったく、、、。」 「いいじゃない。 仕事が動き出したら何か出てくるよ。」
「そうだといいけどなあ。」 みんなはテーブルに落ち着いてカレンダーを見やった。
 「あと3週間。 古着を集めるのと作業手順の確認をしなきゃねえ。」 「古着は何処に置いてあるの?」
「役所の倉庫だって聞いてるわよ。」 「見に行かなくて大丈夫?」
 「そうねえ。 幽霊さんが悪さしてるかもしれないもんねえ。」 「真子ちゃん 怖いこと言わないでよ。」
「あらあら、舞子さんって幽霊嫌いなの?」 「だーーーーーーーい嫌いですわ。」
 「何だい だーーーーーーい嫌いって?」 「そんだけ嫌いなのよ 私。」
「後ろに誰か居るけど、、、。」 「え? 嘘? キャーーーーーー!」
 慌てて舞子が飛び出していったもんだから真子も山田も腹を抱えて笑い出してしまった。 「意地悪な人たちねえ。」
今日も相談しに来る人たちが居ます。 山田さんはあれこれと作業内容を説明していますが、、、。
 相談者が帰った後、コーヒーを飲みながらポツリ。 「5人来たのに通ってくれる人は居なかったな。」
「そりゃさあ古着の店だもん。 よっぽどに興味が無いと来ないわよ。」 「そうねえ。 おばあちゃんたちの店って感じだもんね。」
 「もうちっと明るく出来ないかなあ?」 「え? スパンコールでも付けるの?」
「あの、、、キャバレーじゃないんだからさあ。」 「そうだよなあ。」
 それでも何とか作業をする部屋は確保できたようです。 そこへ役場の峰岸さんが来ました。
「こんちはーーー。 お店の様子はどうですか?」 「どうってこういう感じだけど。」
「冷たいなあ。 もっと優しい言葉は無いのかなあ?」 「無いよ。」
 峰岸さんは一度外へ出てから大きな荷物を押してきました。 「何それ?」
「役所で預かっておいた荷物の第一便です。」 「第一便?」
「そうそう。 あと三つ有りますから。」 「そんなに来てるの?」
 「実はね、役所の連中にも声を掛けて集めてもらったんですよ。」 「まあまあそこまで、、、。」
靖子も真子も荷物を見てびっくり。 こんなに届くとは、、、、。
 「取り敢えずさあ、中身を見てみようか。 どんなのが入ってるんだろうなあ?」 山田さんも乗り気のようで、、、。
 舞子さんも手伝って荷物を開けてみました。 けっこうな量の古着が入ってますねえ。
「え? この袋は何?」 康子が大きなビニール袋を取り上げました。
「なんかいっぱい入ってるなあ。」 山田も興味津々。
 その袋を受け取った舞子さんは開けてみてびっくり。 「これ、、、みーーーんなパンツ。」
「えーーーーーーーーーーーーーーー?」 二人が大きな声で驚くものだから山田は呆気に取られてしまった。
 「パンツか、、、。 どうしようもないなあ。」 「しかもこれ、女性用よ。」
「でもさあパンツばかり30枚も誰が出したんだろう?」 「そんなの分かんないわよ。 それより使えるの?」
「まあ、、、使え、、、、ないことは、、、、、、無いわね。」 真子も必死に笑いを堪えている様子。
 「このパンツを展示するの?」 「それだけじゃあ無理だよ。 ランジェリーショップじゃないんだから。」
「そうよねえ。 どうする?」 「取り敢えずこれは奥に仕舞っておきましょう。」
 康子がビニール袋を奥の部屋に持っていくと山田が次の袋を取り出した。
「これはポロシャツかなあ? スカートとかジーパンとか、、、靴下も入ってるなあ。」 「スカート 破れてない?」
「うーーーーん、穴が空いてるなあ。 いやいやこれじゃあお尻が見えちゃう。」 「山田さん、喜んでるでしょう?」
「何で?」 「だって、、、。」
 「あ、そうか。 山田さん 覗き魔だもんなあ。」 「何だよ 覗き魔って?」
「いっつも誰かのトイレを覗いてるんでしょう?」 「俺はそんなことしないよ。」
 「うっそーーー。 公園で山田さんによく似たおじさんが覗いてるって言ってる人が居たんだけど。」
「それは勘違いだよ。 だいたいぼくは公園なんて行かないし、、、。」 「まあまあ信じてあげましょうよ。 真子さん。」
「人聞き悪いことを言うなあ。 みんな揃って。」 そこへまたまた大きな荷物が、、、。
「第2便ですからね。 皆さんよろしくお願いしますよ。」 「大変ねえ。 後はあたしらがやるからいいわよ。」



< 3 / 7 >

この作品をシェア

pagetop