舞子姉さんの古着屋さん奮闘記
 取り合えず作業場にしている部屋のテーブルに全部を投げ出してみる。 「え? これはなあに?」
何かゴトンって音がした。 「何だろう?」
 康子さんも古着の山を漁っている。 「これか、、、。」
そして拾い上げたのは貯金箱だった。 「何か入ってるなあ?」
 山田が蓋を開けてみると小銭がジャラジャラとこぼれ出してきた。 「いくら有るのよ?」
「そんなの数えてる暇は無いよ。 さっさと整理を終わらせようよ。」 「そうね。」
 真子も気にはなるようだけど気になってばかりもいられない。 セーターやらジャンバーやら下着やら出てくる物を一つずつ確認しながら箱に入れていく。
いつの間にかみんなは無口になって仕事に熱中し始めていた。 外はいい天気。
 そろそろ名残雪も降ることを諦めそうな予感。 少しずつ風は暖かくなってきている。
そんな中で古着やさんはスタートの時を迎えようとしてるんですね。

 山田が三つ目の荷物を運んできた。 「ご苦労様でーす。」
「いやいや、これもなんか重たいよ。」 持ってみると確かに重たい。
 「何が入ってるんだろう?」 真子も康子も興味津々。
山だが蓋を開けてみると、、、。 「ブエーーーーー、何だこりゃーーーーー!」
 「何々? どうしたの?」 洗濯機を回していた舞子が驚いて飛んできた。
「これだよ これ。」 山田が取り出したのは何重にも袋がかぶせられた荷物。
 何とも言えない臭いが部屋中に立ち込めてきたから大変。 「窓開けて!」
康子も真子も窓という窓を全開にしたけれど、それでも臭いが消えない。
 「何なのよ これ?」 「分かんねえ。 これは触らないほうがいいな。」
「何かさあ、箱の中がグシャグシャなんだけど、、、。」 「分かった。 それはもう開けないで。」
 兎にも角にも部屋中が異様な臭いに包まれてしまって戦意喪失って感じ。 「一度、換気して明日やり直しましょう。」
「それしか無いな。 そうしようか。」 というわけで早々と仕事を切り上げてみんなは帰っていきました。
 翌日、舞子さんは真子と一緒に大きな盥とバケツを持ってきました。 「でもさあ、あれは取り出すのも大変だよ たぶん。」
「そうねえ。 でも出さないと何も出来ないわよ。」 「それもそうだわ。」
 そこへ山田もやってきた。 「役所のやつに聞いたんだけどさあ、、、。」
「何だって?」 「やつらにも分からないらしい。」
「冗談じゃないわよ。 私らは特攻隊じゃないんだから。」 「それはそうだけどさあ、預かるだけ預かってこっちに投げて寄越したんだ。 どうしようもないよ。」
 3人はものすごい臭いがする大きな箱を作業場に運んできました。 「ブェーーーーー、何だこりゃ?」
箱から出したのはどうやら刺身が詰め込まれたナイロン袋らしい。 しかもドロドロ。
 「今日も窓を全開にしてくれ! そしてこいつはまとめて生ゴミに捨てよう。」 「でもさ、誰が刺身を?」
「知らないわよ。 とにかくさあ私たちは残飯を漁ってるカラスじゃないんだから役所にもきちんと対応してほしいわね。」 真子は窓から顔を突き出すと深呼吸しながらぼやいた。
 とにかく集めてもらった古着は何とか揃った。 ジャンバーから靴下までいろんな物が棚に並んでいる。
「汚れてる物も有るけどどうするの?」 「ひどいのは先に洗うよ。 そうでもないやつは作業所が始まってからでもいいだろう。」
「このダメージズボンはどうするの?」 「ああ、それね。 若い連中ならダメージファッションに請ってるからいいのを選んで棚に置いとくよ。」
 「それでも余ったら?」 「余ったらテーブルクロスとかカーテンとかに作り直せばいい。」
「リメークするのね?」 「そうだ。 反物だってけっこう入って来てるからいろんな物が作れるよ。」
 「じゃあさあ下着は?」 「汚れてるやつは売れないし使えない。 きれいな下着はリメークに回そうか。」
「そうだねえ。 他人のパンツを履きたいとは思わないもんねえ。」 舞子さんがボソッと言うのを聞いてみんながドッと笑った。
 「さてさて後は昼飯の手配と役割分担だな。」 「お昼ならファミマでいいでしょう?」
「おいおい、それもいいけど他に無いのかね?」 「そうだなあ。 地域食配センターが有るじゃない。」
「センターか。 調べといてよ。 康子さん。」 「分かった。 明日には返事を持ってくるわ。」
 外は今日もいい天気。 野良猫が餌を探して歩き回ってます。
この近所には団地も有りましていつも何かをやってます。 古着屋さんの前を通るたびにおばあちゃんたちが不思議そうな顔をします。
 だって『舞子さんの古着サロン』なんてデカデカと看板に書いてあるんだもん。 気になりますよねえ。
以前はスーパーだった所。 たまに間違えて来る人も居るんだ。 舞子さんたちを見て慌てて出ていくんだって。
 「失礼ねえ。 何も言わずに入ってきて驚いて出ていっちゃうなんて、、、。」 「しょうがないよ。 元はスーパーだったんだから。」
「それはそうでしょうけど挨拶くらいは、、、。」 「それがおばちゃんなのよ。」
真子が澄まして言うものだからみんなはまたまたドッと笑いだした。 「それもそうね。」
 片付けも少しずつ進んできて作業場らしくなってきました。 あともう少し。
「山田さん 電話が、、、。」 「あいよ。」
 康子が休憩室に入ってきた時、玄関からおばあちゃんが入ってきた。 「あれあれあれ?」
「どうしたんですか?」 「買い物に来たんだけど、、、。」
「ああ、ごめんなさいね。 ここはスーパーじゃなくて作業所になっちゃったのよ。」 「作業所?」
 おばあちゃんには何となく呑み込めないようですが、、、。 「ここさあ、前はスーパーだったのよね。 買い物には不便してるでしょう?」
「そうなんだよ。 この近くに住んでるから、、、。」 「いいわ。 暇だから私がスーパーに連れてってあげる。」
 真子が裏の駐車場に飛んでいきました。 「おばあちゃん、車が来るまでここに座ってましょう。」
 舞子さんも椅子を持ってきました。 その頃、山田は?
 「ああ、そうなんだ。 では4月1日から作業をスタートしますから。」 どうやら申し込んできたおばちゃんと話し合っているようです。
もう3月も終わり。 子供たちは春休み真っ最中。 この近所でも子供たちが走り回ってます。
もちろん雪だってまだまだ残ってます。 冬もやっと終わり。
 「玄関にさあプランターを置こうよ。」 「プランター?」
「あれじゃあ殺風景だし寂しいじゃない。」 「何するの?」
「私、花植えてるから何個か持ってこようと思ってんだけど、、、。」 「真子さんが花?」
 「うん。 いいかなあ?」 「花って何植えてるの?」
「チューリップとカサブランカ。」 「へえ、すごいじゃん。」
 舞子さんたちは花の話で盛り上がってます。 「花より団子かと思ってたんだけど、、、。」
「山田さんじゃないんだから。」 「何だい 俺がどうかした?」
 山田は急に話を振られて驚いた顔で真子を見た。 「山田さんは花よりお、ん、な、、、よね?」
「またまた、そんなこと言っちゃって。」 「いいじゃない。 山田さんもまだまだ若いのよ。」
「舞子さん それどういう意味?」 「そういう意味ですよ。」
 澄ました顔で舞子さんは買い物に出ていった。 「あんちきしょう、、、。」

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