エリート外科医の蕩ける治療
「とりあえずご飯を食べませんか?」

「うん、作ってくれてありがとう。いただきます」

一真さんは嬉しそうに箸を進める。唐揚げもだし巻き玉子も、ほうれん草の和え物も、一つ一つ「美味い」って食べてくれて……。なんだかその姿を見ているだけで胸がいっぱいになるというか……。

「杏子は食べないの?」

「食べるけど、一真さんが美味しそうに食べてくれるのを見ているだけで、幸せだなって」

言いながら、このやり取りに既視感を覚える。そうだ、物産展デートした日、一真さんも私の食べる姿を見ている方がいいって、そんなことを言っていたんだった。

あの時の一真さんの気持ちがわかったかもしれない。そうやって、一真さんもきっと幸せを感じていてくれたんだ。じんと胸が熱くなる。

「私も唐揚げ食べたい」

箸も持たずにぱかっと口を開けたら、察した一真さんが唐揚げを摘んで口に放り込んでくれた。

「ほひひい〜(おいしい)」

「あはは! ほっぺたがハムスターみたいになってる。杏子可愛い」

前触れもなくそんな事を言うものだから、一気に熱が上がってしまう。恥ずかしいけど嬉しい、なんて贅沢なんだろう。

「はい、一真さんも。あーんして」

「え、俺はいいよ」

「やだやだ、やりたい。一真さんもハムスターにしたい」

大きそうな唐揚げを摘んで強制的に一真さんの口に入れる。可愛げもなにもあったもんじゃないけど、大人になってからもそういうやり取りができて、そんなことにいちいちときめいてしまう自分の感情に、きゅんとしてしまう。

私ったらどれだけ一真さんのことが好きなんだろう。

「一真さんもハムスターみたいで可愛い」

「それはちょっと複雑。俺は杏子の前ではカッコよくいたい」

「いつもカッコいい! 推しメン! 一真さんこっち見てってうちわ振りたい」

「なんだよ、それ」

笑い声が部屋いっぱいに広がる。あんなにギスギスした空気も、今となってはどこへ行ってしまったのか。ほんのちょっと前までは泣きそうな気持ちだったはずなのに。

今は嬉しくて楽しくて仕方がない。一真さんとこうやっておしゃべりして笑い合えることが、何よりも幸せだ。
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