心とりかえっこ

「使いなよ。まだ新品だから安心して」
「新品?佐々木くんが何かに使おうとしていたんじゃないの?」
「大丈夫。ばーちゃんが〝血を拭け〟って勝手に渡してきただけだから」

言い方は雑だけど、そのタオルをわざわざ持ってきている事実に、佐々木くんへの好感度が少し上がる。それにおばあちゃんがいたんだ、初耳だ。

ありがたくタオルを借りて、手についた涙を拭き取る。そんな私を見ながら佐々木くんが「そもそも」と、血がついた口を動かした。

「なんで泣いてたわけ?」
「えっと……」

泣いてたのはバレたから、もう誤魔化しようがないとして。ぴ助が死んだと正直に言っていいものか。もしかしたらからかわれるんじゃ――そう思い佐々木を見る。

すると彼は「ん?」と、にっこり笑ったまま首を傾げた。その笑顔を見ると、「事実を言っても大丈夫」と根拠の無い信頼を生むらしい。気づけば私は「飼っていたインコが死んだ」と話していた。

「大事なインコで、すごく可愛かったの」

ぴ助を思い出すと涙が溢れる。せっかく止まっていたのに、振り出しに戻ってしまった。

だけど佐々木くんがタオルを貸してくれてよかった。遠慮なく涙を拭き取っていく。同時に「ありがとう」とお礼を言おうとした、その時だった。

「たかがペットのインコが死んだだけで泣いたの?」

衝撃的な言葉が、佐々木くんの口から飛び出す。
彼の口は容赦なく、私に向けて弧を描いていた。

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