隠れる夜の月

「えーと、瑞原さん。とりあえず座って」
「はいっ」

 ぴょこん、と気のせいでなく数センチその場で跳ねた後、三花は椅子に腰を下ろす。
 それでもなお、背中に棒を入れられたかのごとくピシッとした姿勢に、思わず苦笑した。

「あのさ。確かに俺は社長の息子だけど、今は平社員だから。なるべく普通に接してくれる方が有難いかな」
「は、はい」

 こわばった口調で返事をする様子から、彼女の生真面目具合を拓己は察した。

「緊張してる?」
「ええ、その、少し」

 あくまでも真面目な表情で答える三花は、紺色のパンツスーツに後ろでひとつ括りにした髪型、さらには眉の位置で切りそろえられた前髪と、いかにも新入社員といった地味ないで立ちである。
 だが、こうやって間近で向き合うと、顔立ちはかなり可愛らしい。瞳が大きいせいかやや童顔に見えるが、目の輝きとほんのり紅潮した頬は、彼女の意欲の高さを表している。

 服装を年相応の私服、いやオフィスカジュアルに変えるだけで、段違いに魅力的になる。直感でそう思った。

「あの、長倉さん。私は何をすればよろしいでしょうか」
「うーん、そうだな……今日は気楽にしてて」
「──えっ?」

 ぽかん、とした表情を隠さない三花に、拓己は説明した。
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