隠れる夜の月
「承知しました。失礼のないよう指導します」
「そうしてくれ」
書類を見るふりで視線をそらしながら、課長は話を締めくくる。何かあれば拓己の責任になる、とその態度から受け取った。
反発心が芽生え、望むところだという気持ちになった。新入社員ひとり教育できないようでは、将来的に会社を背負うことなどできはしない。
席に戻った拓己を、三花はやや硬い顔つきで迎えた。話が短かかったので断られたと思っているのかもしれない。
「名刺は作ってもらった?」
「え。あ、はい」
拓己の問いに、ビジネスバッグから名刺ケースを取り出して三花は答えた。
「すぐ用意して。出かけるよ」
「えっ、……大丈夫なんですか?」
首をかしげる三花に、親指を立てて見せる。
「課長のOKが出たから。ただし、出先で何も起こさないようにって釘を刺されたけど」
「……ありがとうございます!」
顔いっぱいに疑問符を浮かべていた三花の表情が、みるみるうちに明るいものに変わった。
わかりやすく表情を変える子だな、という思いとともに、曇りのないその笑顔がとても魅力的に感じて──もっと言うなら、非常に可愛らしく映った。