隠れる夜の月

 彼女がなぜ、これほど仕事に対して熱意を持っているのか。それは昼食の時に判明した。

「私、営業職に就きたいんです」

 注文したランチが運ばれてくるのを待ちながら、三花は迷いなく言った。

「自分で取引先を開拓したり、仕事を提案するのって、すごくワクワクしませんか?」
「まあ、そうかな」
「ですよね。大学の先輩が、女性なんですけど営業職で、すごく充実した感じで話をしてくれました。だから私も、そういう仕事がしてみたいなって思ったんです。それに、私の父も勤め先で営業をやってて」

 そこでそれぞれの食事が出てきたので、しばし会話が途切れる。

「親父さんも営業なの?」

 互いが味噌汁を一口すすったタイミングで、拓己から話を再開した。

「はい。どちらかと言えば零細企業なんですけど、父はそこで仕事するのが本当に好きで。社長さんも他の社員さんもいい人ばかりみたいで、この間入社三十周年を祝ってもらってました」
「へえ、それはすごい。勤続三十年はうちの社でもあんまりいないよ」

 素直に感嘆すると、三花は嬉しそうに笑みを深めた。

「社員のお祝い事は欠かさない社風なんだそうです。母との結婚の時も、ちゃんとお祝い金を出してくれたそうで」

 その言い方が引っ掛かった。社員の結婚に会社が祝い金を出すのは、むしろ当たり前ではないのか。

「……実は、うちの両親、駆け落ち婚なんです」
「駆け落ち?」
「母の家がけっこう、古い考えのお家だったみたいで。ただの勤め人が娘と結婚するなんて許さないって反対されて、仕方なく母は実家と縁を切ったそうです」
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