隠れる夜の月
その後は、仕事の話を中心に軽く会話を交わしつつ、午後のアポイント先へと移動した。
日が傾き始める頃には、無事にすべての予定を終えた。
帰社途中の車の中、信号待ちの運転席でスマホを操作する拓己の横で、三花は静かにメモを記していた。
こちらの気配を感じて視線を向けた彼女は、メモ帳を自分のカバンに戻したあと、まっすぐに顔を上げる。
「今日は、同行させてくださってほんとにありがとうございました。すごく勉強になりました」
その言葉が社交辞令や形だけのものではないと、すぐにわかる。
三花の目が、本当に生き生きと輝いていたから。
「期待してるよ、瑞原さん」
気づけば口走っていた一言に、三花の瞳がわずかに見開かれた。
けれど次の瞬間、すぐに嬉しそうに目を細めて、深く頭を下げる。
「はい、頑張りますっ」
小さな手を握りしめ、ガッツポーズのようにして応じる彼女を見て、どこか父親に、もしくは兄にも似た感情がよぎった。三花が内に秘める心の強さが、彼女自身を輝かせて見せるのだと、理屈でなく感じた。
……初対面から数時間しか経っていないのに、ずいぶん長い時間を共にしたような気がする。
そう思ったこと自体に、拓己は少しだけ、表現しきれない戸惑いを覚えていた。