隠れる夜の月

「いいの?」

 ミニトマトに刺していたピックを唐揚げに刺し直し、どうぞ、と差し出す。受け取った拓己は一口かじった途端「うっま」と反応した。

「すげえ美味い。これ、何で味つけしてんの」
「塩麹に浸けて、ちょっとだけカレー粉まぶしてます」
「それでこんな味になるの? すごいな」

 そう感想を述べつつ拓己は、スーツの上着からポケットティッシュを取り出す。引き出した一枚でピックを丁寧に拭いた。

「ほんと美味かった。サンキュ」

 返されたピックを受け取りながら、三花は自分の心臓がかつてないほど強く鼓動を打っているのを感じていた。

 いくらだって美味しいものを食べられる立場の人が、なんてことのない弁当のおかずを、あんなにも美味しそうに食べてくれた――私が作った唐揚げを。

「俺も今ひとりだけど、さすがに弁当自作するスキルはないなー。まあ時間もないんだけど」
「…………あの、もしよかったら」
「ん?」
「お弁当、用意しましょうか」

 三花の提案に拓己は目を丸くした。
 唐突すぎたか、と思いつつも引っ込みがつかない気分で言葉を続ける。

「毎日は難しいですけど、週に何回かなら――好き嫌いとかアレルギーとかありますか」
< 28 / 102 >

この作品をシェア

pagetop