隠れる夜の月

「いや、どっちもない……けど、大変じゃないのか」
「大丈夫です、作る手間は一人も二人も変わらないので」
「――なら、週一ぐらいでいいよ。外回りの時は持ち歩くの大変だし、時期的に」

 季節は梅雨を過ぎて本格的な夏を迎え、毎日蒸し暑い日々が続いている。オフィス内ならまだしも、この気候の中で生ものを持ち歩くのは安全管理上よろしくない。

 拓己はほぼ毎日外回りの予定があるし、三花も週に二回ほどは今も彼に付いて外出している。そろってオフィスで昼食を採れるのは確かに、週に一度ぐらいだろう。

「わかりました。じゃスケジュール確認して、作る前日にはお伝えしますね」
「了解。楽しみにしてる」

 提案が受け入れられたのに安堵しつつも、本音では戸惑いの方が大きい。そんな感情が伝わったのか、拓己が苦笑いとともにこう説明した。

「うちの母親、意外とちゃんと子育てには関わってくれてて。だから遠足とか運動会の時に弁当も作ってくれたんだけどさ、妙に豪華な内容ばっかで変に目立っちゃってさ。友達の素朴なおかずが正直、うらやましかったよ」

 なんとなく、拓己の気持ちはわかるような気がした。
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