隠れる夜の月

「先輩、検索するの相変わらず早いですね」
「もう癖づいてるからな。瑞原だってそうだろ」

 話をしながらも箸を動かす手は止まらず、米の最後の一粒まで食べ終えた拓己は、行儀良く手を合わせた。

「ごちそうさま。今日のも美味かった」

 今日は鮭とキノコのバター醤油焼きをメインに、卵焼きやブロッコリーソテーなどを入れた。奇をてらった内容ではないし、鮭は昨日スーパーで特売だった品。そんなごく普通の中身を、終始機嫌よく「美味い」と食べてもらえることがこんなに嬉しいなんて。

 大判のハンカチで丁寧に包まれた容器を受け取りながら、三花はときめきを抑えるのに必死だった。
 こんな感情、職場の先輩に持つべきじゃない。そう思っても、拓己への好感が毎日膨らんでいくのはどうしようもなかった――おそらくもう、彼に恋をしている。

 生まれ育ちをまったく鼻にかけない謙虚さ、仕事に傾ける努力と情熱を知れば知るほど、これまで出会ったどんな異性よりも拓己が魅力的に思えた。彼の仕事をサポートできる自分は、なんて恵まれた状況にいるのだろう。

 ……けれど、彼はこの会社の御曹司。社長の跡取り息子。
 一般社員の三花が個人的に近づける相手ではないし、向こうも眼中にないはず。
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