隠れる夜の月


 三花への想いと将来への決意を固めたものの、いざ今後どうするか、を考えてみると難しかった。

 いや、自分がはっきりと行動に移せばいいのだが――三花に会うと、今まで感じなかった(もしくは気づいていなかった)遠慮というか、怖気づく気持ちが顔を出してしまう。

「あれっ先輩。お久しぶりです」
「……だな。久しぶり」
「どうしたんですか?」
「え?」
「なんか、深い悩みがあるみたいな顔してますよ」

 ズバリと、しかも悩みの大元である相手から指摘されて、二の句が継げない。

「図星なんですか? ひょっとして、お見合いの件が進んでるとか」

 当たらずとも遠からずな推察で追及されて、ますます言葉を返せなくなる。

「ついに先輩も腹をくくったんですね。お母様、安心なさってるでしょ」
「……いや、その」
「お話まとまったらどんな方か教えてくださいね。それじゃ」

 にっこりと笑いかけながら二課へと戻っていく。そんな三花の後ろ姿を、やや切ないような、けれど確かな愛しさをもって拓己は見つめた。

 綺麗に伸びた背筋、きっちりとまとめられた艶のある黒髪。
 三年間近くで見てきたはずなのに、今は、めったに見かけることもできない。

 仕事上、忙しくてすれ違うのは仕方ない。
 けれどそれ以外の所では、一番近い存在になりたい。心も身体も。
< 42 / 102 >

この作品をシェア

pagetop