隠れる夜の月
三花への想いと将来への決意を固めたものの、いざ今後どうするか、を考えてみると難しかった。
いや、自分がはっきりと行動に移せばいいのだが――三花に会うと、今まで感じなかった(もしくは気づいていなかった)遠慮というか、怖気づく気持ちが顔を出してしまう。
「あれっ先輩。お久しぶりです」
「……だな。久しぶり」
「どうしたんですか?」
「え?」
「なんか、深い悩みがあるみたいな顔してますよ」
ズバリと、しかも悩みの大元である相手から指摘されて、二の句が継げない。
「図星なんですか? ひょっとして、お見合いの件が進んでるとか」
当たらずとも遠からずな推察で追及されて、ますます言葉を返せなくなる。
「ついに先輩も腹をくくったんですね。お母様、安心なさってるでしょ」
「……いや、その」
「お話まとまったらどんな方か教えてくださいね。それじゃ」
にっこりと笑いかけながら二課へと戻っていく。そんな三花の後ろ姿を、やや切ないような、けれど確かな愛しさをもって拓己は見つめた。
綺麗に伸びた背筋、きっちりとまとめられた艶のある黒髪。
三年間近くで見てきたはずなのに、今は、めったに見かけることもできない。
仕事上、忙しくてすれ違うのは仕方ない。
けれどそれ以外の所では、一番近い存在になりたい。心も身体も。