隠れる夜の月
それから数日後。
午後の就業時間が始まって一時間ほどの頃。
拓己がビルの屋上にある、ミニ庭園のようになっている休憩所に気まぐれで向かうと、そこに三花がいた。外周に沿って配置されたベンチのひとつに座って、膝に弁当を広げている。
季節はすでに夏といっていい暑さだが、今日は湿度も日差しもそれほど強くなかった。程よく快い風も吹いていて、日陰ならば外でしばらく過ごせる気候だ。
数秒足が固まったが、深呼吸をして、彼女に近づいていく。
五メートルほどの距離になったところで気配に気づいたようで、三花が顔を上げた。
「あ、お疲れ様です先輩」
「お疲れ。今から昼?」
「そうなんです。昼前に行った顧客の所で、ちょっと話が長引いて」
「隣、いいかな」
「どうぞ」
何の躊躇もなく応じた三花の左側に、やや緊張を感じつつ座る。
持ってきた缶コーヒーを開けて、ぐっと一息に半分ほど飲んだ。
ちらりと右隣を見ると、かつて見慣れていた彼女お手製のおかずが目に入った。一口カツ、ほうれん草のおかか和えにミニトマト、ごまを混ぜた白飯。
以前に比べると、おかずの種類が少ない気がする。心なしか弁当箱もひと回り小さい。
「……食べる量、前より減ってないか」
問いかけると「先輩鋭いですね」と答えが返ってくる。