隠れる夜の月
「実は節約してまして。最近、出費が続いてるもので」
苦笑いで応じた三花の、頭から足先までをざっと見る。
今日は背中の中ほどまである髪を下ろし、サイドを髪留めでまとめている。毛先は切り揃えられ、傷んでいる様子などはない。服も靴も、皺ひとつなく整えられ磨かれている。
ふと思った。三花は一人暮らしだと言っていたはず。
普通の二十代女性が働いて、住む部屋の家賃や光熱費を払いながら生活していくのは、決して簡単なことではないだろう。食べられれば良いというものではなく、社会人としての身なりにも気を配らなければいけない。
まして三花は営業職。会社の顔として恥ずかしくない格好を、と思うのが当然で、彼女の生真面目な性格を考えれば、食費を節約して衣類や髪を整える方に使うのは必然だと言えた。
(そうだ、……こういう子だから誰かが守らなきゃいけないと、どこかでずっと思ってた)
三花はいつだって、真面目で律儀で、頑張り屋で。
だが裏を返せば、それは「気づかないところで無理をしている」場合もあり得るということ。
実際、一緒に仕事をした年月の間に、三花が会社で体調を崩した時も二回ほどあった。いずれも繁忙期のことで、残業がとんでもない時間まで続いていた時期だった。だが彼女は一度も、倒れるまでは弱音を吐かなかったのだ。
ぱっと見は可愛らしくて繊細そうだけれど、人一倍熱意があって努力家。こちらが驚かされるほどの根性も備えている。
ーー彼女がもし、子供を産んだら。唐突にそんな想像が湧いた。