隠れる夜の月

 きっと、周りが心配するぐらいに一生懸命育児をするだろう。大事に育てて、心の底から子供を愛するに違いない。

 三花のそんな姿を、見たいと思ったーー誰よりも一番近くで。自分に似た子を育てる彼女を。

「瑞原」
「はい」

 振り向いた三花と目が合い、一瞬言葉に詰まる。

 わずかな沈黙をどう受け取ったか、三花は手にしたお茶のペットボトルに口をつけた。
 喉に引っかかった言葉を、屋上から飛び降りるような心地で、拓己は表に出す。

「ーー俺の、子供を産んでくれる?」

 直後、三花は口に含んだお茶を吹き出した。
 目を白黒させ、咽せて咳き込む様子に、思いきり間違えたのだと気づいた。

 なぜ言ってしまったのだろう。この状況下で。
 彼女にとって自分は「職場の先輩」でしかないというのに。言うならせめて、段階を踏んで口に出すべきだった。

 いくら、本気でそう――彼女が産む子供の父親になりたいのだと、思っているにせよ。
 今この場で言うべきではなかった。

「……な、何……っ、言ってるんですか」

 やっと咳を止められたらしい三花が、咳き込みすぎて潤んだ目と、真っ赤な顔でこちらを見る。
 視線がまともにぶつかった。

 冗談だったと言ってしまえば、しばし気まずくはあっても、何事もなかったことになるだろう。けれど。

 ――冗談なんかじゃない。

 ただの失言で終わらせたくない。
 それをいつか現実にしたいのは、本当の気持ちなのだから。
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