隠れる夜の月

 あれだけあからさまにされては、認識せざるを得ない。
 無理もなかった。あんな唐突にとんでもない発言をしたあげく、結婚前提での交際を申し込んだのだ。拓己のことを単なる「職場の先輩」としか思っていないのなら、断る文句に困ってしまうだろう。
 困った末に「避けていればあきらめてくれるかも」と考えたとしても、不思議ではない。

 あるいは。

『ダメですよ、他の人にそんな冗談言っちゃ。本気にされて大変ですよ』

 まさか三花は、本気にしなかったというのだろうか。

 ――それも、考えてみるとあり得ることではあった。
 これまで、三花に対して好感は持っていたが、最近までその感情を「妹に感じる親愛の情みたいなもの」とずっと思い込んできたのだ。だから、彼女に接する際に緊張して近寄れないとか言葉に詰まるとか、いわゆる恋する男的な反応をしたことはなかった。
 それゆえに三花が、拓己の気持ちを「勘違い」しているのだとしても、おかしくはなかった。

 あれほど真剣に伝えたのに、本気と受け取られていないかもしれない、と思ったら――なかなかにショックが大きい。
 だがこの五年間、三花にそれらしいアプローチをしたことなど皆無だったのだ。拓己が自分に想いを寄せている、とは思えなくてもそれはそれで仕方ない。
< 49 / 102 >

この作品をシェア

pagetop