隠れる夜の月

 ◆ ◆ ◆

 閉じたまぶたの向こうに、光を感じる。

 何気なく動かした腕が空を切り、拓己は目を開けた。
 隣にいるはずの彼女がいない。

「みか……?」

 声がまだ寝ぼけている。視線をさまよわせるが、目に入るのは室内の調度、天井、しんとした空気。
 三花がいる気配はまったく感じられない。

 がばりと身を起こし、床に落ちていたバスローブを羽織る。バスルームを覗いたが、昨夜以降に使われた形跡はなく、誰もいない。脱衣所の籠に、丁寧にたたまれたもう一枚のバスローブがある。
 それでも一縷の望みをかけて、室内をもう一度見回す。

 三花の持ち物は何ひとつなかった。鞄も、服も靴も。

 ……その時やっと、ベッドサイドの机に置かれた物に気づいた。折りたたまれたメモ用紙を取り上げ、開く。
 三花の字に間違いない。だがいつも通り丁寧に見えて、どこか無理をして書いたようでもあった。
 短い文面。けれどすぐに理解ができず、二度、三度と読み返す。

(分不相応……迷惑?)

 その単語に、胸を突き刺されるような心地がした。メモの下に置かれていた一万円札にも。
 彼女に、そんなふうに思わせてしまった。昨夜の行為を、一度きりだと切り捨てる決断をさせてしまった。
 あれほど触れ合って、深く溶け合ったにもかかわらず。
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