隠れる夜の月

 ――そうさせたのは、間違いなく拓己自身だ。

 彼女が抱える引け目を取り去ってやれなかった。そんな感情は必要ないのだと伝えきれなかった。
 ……何より、言葉で好きだと、まだ言ってもいない。

 その事実に、自分の頭を叩き割りたくなる。
 どうして、せめて昨夜のうちに一度でも言わなかったのか。言葉にしていれば、三花の受け取り方も違ったかもしれない。

 だがそれは、今となっては想像でしかない。
 すでに現実は始まってしまっている。
 三花は何も言わずに姿を消した。名前のないメモと、まるで線引きをするように金を残して。

 いつの間にか握りしめていたメモ用紙は、下半分がしわくちゃになっていた。

(早く、話をしなければ)

 このままで終わらせられるわけがなかった。
 決めたのだから――誰が何と言おうと、自分は三花を伴侶として選ぶと。

 メモ用紙を元通りに折りたたみ、財布の中に一万円札と一緒に入れる。しわになった紙片が小刻みに震えていた。

 彼女に、きちんと言葉で伝えなければならない。
 昨夜の出来事は、衝動でも気まぐれでもなかった。
 心から彼女を愛している、それゆえの行動だったということを。


 あの夜から、三日が過ぎた。
 月曜スケジュールは異様に詰まっていた。
 社長を交えての営業会議、重要取引先との商談、様々な社内調整。一日が終わる頃には神経がすり減り、ただ席に沈み込むだけだった。
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