隠れる夜の月
◇ ◇ ◇
その夜、一流ホテルの最上階にある、スイートルーム。
室内はどこもかしこも整えられ、春の夜に似合う静けさを湛えていた。
かすかな音がするのは、新婚夫婦が二人きりでいる、奥の寝室のみ。
バスローブの胸元を緩める手の感触に、三花は思わず身が震わせた。
すでに、幾度となく彼に触れられた身体。なのに、今夜は特別な感覚がして――心の、いつもよりずっと深い場所が、じわりと熱を帯びていく。
「緊張してる?」
低く尋ねてくる夫の声に、こくりと頷く。
目を伏せると、額に優しいキスが落とされた。
「……今日は、夫婦として『初めて』だもんな。ちゃんと、忘れられない夜にする」
静かに押し倒され、三花はベッドのマットレスに身体をあずける。
拓己の手が、はだけた胸元をためらいなくなぞり始めた。
熱を帯びた指先が、肌をゆっくりと滑っていく。触れたところも熱を持って疼き、心拍がそのたび跳ね上がる。
「先輩……」
「違う。俺はもう旦那さんだろ?」
耳元でそう囁かれ、三花の肩がぴくりと震える。
「三花は、俺の奥さん。今夜からずっと」
その言葉だけで、身体の奥深くが甘く疼いた。
柔らかく、それでいて艶めかしく微笑んだ拓己が、三花の首筋に口づける。
その唇は首筋から鎖骨、そして胸の谷間へ。
服越しではなく、素肌に直接触れていく感触に、身体のこわばりがゆっくりと溶かされていく。