隠れる夜の月
思わず恐縮する言葉が出してしまうと、拓己に軽く小突かれた。
「そういうこと考えるなって言ったろ? 三花は俺が決めた相手なんだから。うちの親だってちゃんと認めてる」
「――はい」
すみません、と言いそうになったのはかろうじて堪えた。
母の出自がどうあれ、未来の社長夫人、という立場に慣れるにはまだまだ時間がかかりそうだ。そう三花は思った。
さらに日にちは過ぎて、五月某日。
結婚式および披露宴の当日がやってきた。
神前の式は穏やかに、かつ荘厳な雰囲気の中で執り行われた。
集まった親族を前にして、二人は誓いの言葉を交わし、どんな困難があっても生涯共に歩んでいくことを約束した。
披露宴には双方の友人や会社関係者も参加して、派手ではないがにぎやかな集まりとなった。人数を絞ったとはいっても百人を超えた招待客に囲まれ、二人は始終、各人からの祝福のシャワーを浴び続けた。
かつての上司や同僚のスピーチではそれぞれに盛り上がり、両親への感謝の手紙を読むくだりでは会場中がしんみりと涙ぐみ。
集合写真から最後の挨拶に至るまで、誰もが宴の進行に協力的に振る舞ってくれた。忙しなくはあったが温かな雰囲気に満たされていた。
思い返すたびにそう感じられる披露宴ができたことに、二人とも心から喜びと満足を覚えたのだった。